クライミングと恋愛と心理を丁寧に描きます。
ストロベリーキャニオン
クライミングと恋愛マンガを組み合わせたのが、ストロベリーキャニオンというマンガです。
高校一年生のみよ・鉄・ケイタの幼馴染三人組の恋愛とクライミングにまつわる物語です。
小学校の頃からのクライミング仲間で幼馴染の3人が高校生に成長して微妙に変わっていく精神面や交友関係、そして子供の頃とは違うクライミングとの向き合いへの描写が秀逸です。
少女マンガと侮るなかれ。柔らかなタッチと可愛い絵柄からは想像できないくらいシビアなクライミングシーンが描かれています。
物語にはボルダリングやリードのコンペ(競技大会)が頻繁に登場し、大会で思うように成績が残せない葛藤や成長していく姿が描かれます。
フリクションガールのようなホールドやムーブの書き込みはありません。
そのかわり、アイソレーションルームで待機中の選手の心境やオブザベ中の選手の心理を丁寧に描いています。2019年のクライミングマンガの中でも最も競技チックに描かれているマンガの一つでしょう。
恋愛マンガですが、キャッキャした空気は基本的にありません。
心理描写を丁寧に描く
クライミングマンガにしては課題に使われているホールドの書き込みが簡単だったり、登場人物のムーブが大胆に省略されています。
コンペ課題がわずか数コマと完登しているクライマーの描写で終わっていることすらあります。
そういったところに物足りなさを感じるクライマー読者はいるかも知れません。
でもこのマンガはそういったホールドやムーブの描写を心理描写で埋め合わせています。
クライミングって肉体的なコンディションもそうですが、精神的なコンディションにも大きく左右されますよね。
常連同士でワイワイやりながら登るときは、心身ともにリラックスできて難しい課題をクリアできたりします。
逆に仕事やプライベートで悩み事があると登りにも迷いが生じます。
こういった心理描写が丁寧に描かれているので、クライミング描写が少なくてもしっかりとクライミングマンガとして成り立っているのです。
もちろん、ストロベリーキャニオンの登場人物3人もそれぞれの肉体的・精神的な特徴が与えられています。
オブザベ力は強いのにトーフメンタルなみよ。
発想力とそれを支えるパワーがあるものの、いろいろ抱え込んでしまう鉄。
天性のフィジカルを持つが、それ故に己のクライミングを貫き消耗してしまうケイタ。
そんな風にそれぞれに特徴を持っているので、どこか自分と重ね合わせることができるでしょう。
目指すは東京五輪
精神状態がクライミングに与える影響を色濃く描いた本作ですが、主人公のみよは東京五輪への出場を最終目標にしています。
現実の五輪出場枠への内定はゴタゴタしていますが、その目標への情熱は共感できます。
では、なぜ東京五輪に出ようと思ったのか?
それは幼馴染の一人に告白するため。
この辺の展開には少女漫画の告白ってオリンピックを手段にするほどなの?!ってびっくりした思い出があります。
もちろん作中では好きな人とのコミュニケーション手段としてのクライミングから変化していく心境変化にも注目ポイントです。
実は告白ってのはあくまで手段で、みよの目的はもっと他の所にあるんじゃないかって思わせてくれる展開になっています。
このマンガを読んでみて
かわいい作画からは想像できないくらい、ハードなクライミングマンガで驚かされました。
クライミングとは微妙に違うのですが、わたし自身、少女マンガを読んだのは初めてだったのですが、いろいろ発見がありました。
独特の少女マンガっぽい作風で誰が誰を好いているのかわからなくなったり、吹き出しの読み順がこんがらがったりと、わたしの少女マンガに対するリテラシの低さを感じました。
心理描写に力を入れている反面、ホールドに限らず背景の描写がまんまモノクロ化した写真だったりして驚きました。こんなふうなマンガの表現もあるんだと。
既刊も2巻ですし、少女マンガだからと敬遠することなく読める、クライミングマンガでした。
本記事サムネイルはamazon商品ページより引用しました。